ドナー体験記
患者側のリスクと心理的負担を知る必要がある
Hさん(広島)
 私が骨髄移殖のドナー体験をしたのは、今から3年ほど前になります。友人の白血病発症から母親の骨髄バンクでの活動が、ドナー登録をしたきっかけでした。6年ほど前にドナー登録をし、その3年ほど後に患者の方とHLAが一致、私の骨髄ドナー体験への第一歩が始まりました。
 当初、第2番目の候補として保留状態にあったので、今回は私には回って来ないだろうと高をくくっていたところ、しばらくして私のほうへ骨髄提供の依頼がきました。ドナー体験は初めてのことで、骨髄提供に対する不安な気持ちと5百〜1万分の1の確立の中でHLAが一致した喜びとが、入り交じった心理状態にあったことを覚えています。
 その後、コーディネーターさんから親切で丁寧な説明とアドバイス受け、最終同意を行い、担当医からの説明、自己血保存等のプロセスを踏み、骨髄液の採取に至りました。私の場合では、2時間で1000ccあまりを採取することになりましたが、手術は無事終了し、3泊4日の入院も快適に過ごすことができました。採取後の傷の痛みはまったくありませんでした。それよりも麻酔が完全に抜けるまでの空腹と尿道を通していたカテーテルの後遺症による痛みに、入院中苦しめられたことを今でも鮮明に記憶しています。私の場合は、負担の少ないドナー体験であったと思います。体験を通じて白血病に関する知識とドナーの心理について学ぶことが出来ました。
 さらに、体験を通じて骨髄提供に関するいくつかの課題に直面する機会を得ることとなりました。それは、HLAが適合しても断る(断らざるを得ない)ドナーが多く、その対処策が必要なこと。母を通じて知り合った白血病の友人の話と、私のドナー体験から見えてきたものです。
 ドナー登録をしていて実際にHLAが適合した場合、「仕事の休みが取れない」、「家族が反対する」、「当事者になると怖くてできない」など、断る理由は様々なようです。仕事の休暇においては、国レベルの問題で、休暇が取れるような制度を組み込んでいく必要があると思います。本人、家族の問題であれば、登録する際に、徹底して本人の気持ちや家族の理解度の確認を行うことが必要であるように思います。ただし、本人・家族の気持ちに関しては限界があるとは思いますが・・・。
 私の場合も「家族の理解」、「職場環境」などの条件が満たされたことによって体験することができました。改めて、家族や職場に感謝したいと思います。ドナー体験をするのに実は多くのハードルが横たわっていることを、ドナー側も知っておく必要があると感じます。またドナーは、患者のためにリスクを背負って骨髄提供を実施することになりますが、ドナーとして登録する以上、患者側のリスクと心理的負担を知る必要性とそのことを知る責任があることも感じました。
 骨髄バンクに関して、ドナーの骨髄提供体験をするまでのハードルと患者側のリスクと心理的負担を知らないドナーが増えることは、患者の方々の移殖の可能性が広がる半面、適合者となっても断る人が続けば、患者の方々を闇雲に傷つけてしまうことになりかねません。そこで、ドナー登録者数を増やす際に、本人や家族に対して十分過ぎるほどの理解を得る努力が今後とも必要ですし、またドナーが骨髄提供に臨む際の環境を国レベルでもっと考えていかなくてはならないと思います。その他に、適合者が現れて断られたことを患者側へ伝える方法にも課題が残されているようです。
 体験を通じて、私自身が多くを学ぶこと、様々なことに気がつくことが出来ました。これは、一方的にドナー側が患者の方々に対して貢献しているわけではないことを証明するものであると確信しています。様々な社会問題を解決していく一つの糸口について考える機会を、この骨髄提供の体験を通じて与えていただきました。再び機会が与えられるのであれば、改めて骨髄提供に挑戦してみたいと今でも思っています。